体外受精

体外受精とは

体外受精で初めて誕生した赤ちゃんは試験管ベイビーと呼ばれました。
それは、卵子と精子を試験管の中で混ぜ合わせて授精させ、さらに培養を続けて、その受精卵を胚の状態にして子宮へ戻して妊娠させたことからきています。卵子は排卵前に、採卵針で採取します。そして授精し分割し始めた受精卵(胚)を、人工授精と同じように膣の方から子宮頸管を経て、子宮内に戻します。
このように、体外受精とは、卵子と精子の受精が女性の体内(卵管)ではなく、体外で行われることから名付けられたのです。

矢崎 智子先生

体外受精を受ける前に考えてみること

体外受精は一般の不妊治療でなかなか妊娠できない難治性の不妊に対して行われる治療法です。体外受精を受ける前に、不妊の原因はどこにあるのかを系統的に検査し、それに基づいて正しい治療を受けることが大切です。検査と治療を続けながら治療内容を次第にステップアップしていき、妊娠しない場合、最終的に体外受精に踏み切っていきます。
今までに十分な検査と治療が行われてきたか、体外受精の適応か、慎重に考えるべきで、医師と良好なコミュニケーションを保ち、十分な説明を受けて納得してからきめましょう。体外受精は、経済的にも身体的にも、精神的にも負担が大きいからです。

胚移植(IVF-ET)

体外受精の中で最もよくおこなわれる方法で、取り出した卵子と精子を合わせて受精させ、正常に発育した受精卵(胚)を子宮に戻す方法です。
採卵当日に、卵子と精子の受精が確認された段階ですぐに胚移植を行う前核期受精卵移植法(前核期とは受精卵の分裂が始まる前の段階のことです)が行われていた時期もありましたが、現在では、むしろ5~7日間培養して着床直前の胚盤胞にまで発育させて移植する、胚盤胞移植法が行われています。

体外受精-胚移植(IVF-ET)の対象となるのは、両方の卵管の閉塞や、卵子を卵管内に取り込めないピックアップ障害などの卵管障害、乏精子症や精子無力症などにより配偶者間人工授精(AIH)を行っても妊娠しない場合、女性に抗精子抗体があり受精が困難な場合、薬物療法や手術で子宮内膜症の治療を行っても妊娠しない場合、機能性不妊などの場合です。


①卵管性不妊
②子宮内膜症
③排卵障害
④男性不妊
⑤免疫性不妊
⑥原因不明不妊
⑦その他

矢崎 智子先生

どのように行うか

卵子を体外に取り出す「採卵」の前には、通常は排卵誘発剤を使用します。性成熟期の女性の卵巣は、通常1つの月経周期の間に1個の卵子しか排卵しません。以前は自然の月経周期で発育してくる1個の卵子を採卵して、体外受精が行われました。しかし、現在では排卵誘発剤を投与して、多くの卵胞を同時に発育させ、成熟した卵子をできるだけ多く採取し、受精させ、得られた胚を移植する方法が行われており、この卵巣刺激を調節卵巣刺激(COS)と呼んでます。1個の胚を子宮に移植するよりも、2個の胚を移植した方が妊娠率がより高くなることがわかっているからです。

卵胞を刺激するためにいろいろな方法がとられますが、一般的な方法としてまず、排卵の時期をコントロールするためにGnRHアゴニスト製剤(GnRHa)を投与します。続いてFSHまたはhMG製剤を連日注射し、複数の卵胞を成熟させます。超音波検査により卵胞の大きさを確認し、十分に成長したらhCG製剤を注射して排卵を促します。

採卵はhCG投与36時間後ぐらいに行いますが、通常麻酔をかけ、超音波装置の経膣プローブに取り付けた針を膣から挿入して、卵胞から卵子を卵胞液ごと1個づつ吸引します。その中から卵子を見つけ出して洗浄し、シャーレの中で培養します。1回の採卵で平均10個の卵子を採取します。

一方、精子は採取して、洗浄、濃縮した上で、運動性のよい精子を回収します。卵子1個に精子5~10万個を目安に、シャーレに加えて(媒精)培養すると、15~20時間くらいで培養液の中で受精します。こうしてできた受精卵は分割を始めて胚になりますが、媒精後48時間くらいで4細胞の胚になります。その中から質の良いものを選び出し、胚移植用カテーテルという細い管に入れて、子宮の中に注入します。多胎妊娠を避けるために、日本産婦人科学会のガイドラインでは、子宮に戻せる胚4の数は3個までとされています。多くの胚が得られた場合、凍結して保存し、新鮮胚を移植して妊娠に失敗したとき、その後の周期に凍結保存していた胚を融解して移植することもできます。

この胚移植を行った後には、着床を助けるために黄体ホルモン(プロゲステロン)を投与し、2週間後の妊娠判定を待ちます。

効果と費用

日本産婦人科学会の報告(2007年)によると、体外受精ー胚移植(IVF-ET)で新鮮胚を用いた治療成績は、採卵当たりの妊娠率は14.4%、移植当たりの妊娠率は16.2%です。

一般的に、体外受精に健康保険の適用はなく、1回につき30~50万ぐらいの費用がかかります。


体外受精は、外科的処置を伴うため、完全に安全とは言い切れません。腹水や胸水をともなう「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」などの、排卵誘発剤の副作用や、採卵時の出血や麻酔のトラブルなどが起こる危険性があります。排卵誘発剤を使用することで多胎妊娠が起こる可能性も高まります。その他にも流産、子宮外妊娠の危険性も報告されており、それらを充分に理解したうえで治療を進める必要があります。

顕微受精

男性不妊に対して従来から薬物療法、人工授精が行われてきました。しかし、精子数が少なく、運動率が低く、奇形率が高い場合には効果がほとんどありませんでした。そして、夫婦の年齢、精液所見、不妊期間などによって、次の段階に体外受精へとステップアップしても、精子の所見が悪い時には、通常の体外受精を行っても受精率が低く、妊娠させることが困難でした。

また、精子の所見に異常がない場合でもまったく受精しない、原因不明の受精障害の存在も、次第に明らかになりました。そして登場してきたのが顕微授精です。受精は精子と卵子を一緒のシャーレに入れるだけという体外受精をさらにステップアップさせて、顕微鏡を見ながら卵子に精子を人工的に注入(授精)して、受精させる方法をいいます。通常は、まず体外受精を行って、それでも妊娠に至らない場合に顕微授精を行いますが、不妊症の原因によっては、初めから顕微授精を行うこともあります。

顕微受精の主な方法として、卵子の殻にあたる透明帯に穴を開け精子を新入しやすくさせる「透明帯切開法(PZD)」(卵子1個に対し、必要な精子数は数十個)、透明帯の内側にある囲卵腔に精子を注入する「囲卵腔内精子注入法(SUZI)」(卵子1個に対して、必要な精子数は数個)、さらに内側の卵細胞質の中に精子を注入する「卵細胞質内精子注入法(ICSI)」(卵子1個に対し、必要な精子数は1個)の3つがあります。「卵細胞質内精子注入法(ICSI)」は顕微授精の3つの方法の中で最も妊娠率が高いことから、現在、主流となっています。


顕微授精は、精子の数が極端に少なくても受精が可能なので、強度の乏精子症、精子無力症、奇形精子症、閉塞性無精子症といった重症の男性不妊が対象となります。また、精子や卵子の受精能力に問題がある「高度受精障害」も対象となります。受精障害は、不妊の検査段階ではわからずに、体外受精を行って初めて診断されるケースも少なくありません。


①重症乏精子症
②精子無力症
③奇形精子症
④精巣上体精子あるいは精巣精子を用いる場合
⑤抗精子抗体陽性の場合
⑥原因不明の受精障害
⑦その他

どのように行うか

卵子を体外に取り出すプロセスは胚移植と同じです。採取した卵子は洗浄し、「ヒアルロニダーゼ」という酵素で処理をして表面の卵丘細胞を取り除きます。

精子については、精液から摂ることができるのであれば、同様に採取します。精液中から発見できない場合は、精巣上体から精子を、または精巣から精細管組織の一部を採取して、顕微鏡を見ながら精子を探し出します。卵子への注入を人工的に行うため、運動能力に欠ける精子も利用でるのが体外受精とは異なる点ですが、より高度な技術が必要となります。

効果と費用

日本産婦人科学会の報告(2007年)によると、顕微受精で新鮮胚を用いた治療成績は、採卵当たりの妊娠率は12.2%、移植当たりの妊娠率は13.2%です。

健康保険の適用外で、高度な技術を必要とするので、胚移植より数万円~10万円ほど高いようです。

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スプリット法

採取された成熟卵を2グループに分けて、体外受精(ここでは単に体外で精子と卵子を受精させる意味)と顕微授精とを行うことをいいます。精子の状態が悪く顕微授精が必要と考えられるが、条件によっては受精するかもしれないと思われるときに行われることがあります。また心理的に顕微授精では生命誕生に対し自然の選択(神の領域)の余地がないとの理由で、少なくとも得られた卵子の半分は自然に受精させてほしいと希望する夫婦がいることも事実です。

通常の体外受精(胚移植)以外の生殖補助技術

配偶子卵管内移植(GIFT)法

ギフト法とも呼ばれ、1984年に体外受精の変法として考え出された方法で、卵子と精子(配偶子といいます)を卵管内に注入して卵管内で受精させ、妊娠させる技術です。大掛かりな培養施設がなくてすみ、受精も女性の体内の卵管内で行われるため、より自然に近いと考えられています。しかし、卵管の左右いずれか一方が疎通性を保っていることが必要で、また腹腔鏡操作を行うため、体外受精に比べ、より煩雑で侵襲的で、最近は行われる機会が少なくなってきています。

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接合子卵管内移植(ZIFT)法

ジフト法とも呼ばれ、精子と卵子が受精して前核期段階の接合子となった状態で卵管内に移植する方法です。また、胚の状態になってから卵管内に移植する方法を卵管内胚移植法(TET)といいます。

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TESEについて

無精子症の男性に対し、精巣を顕微鏡などを用いて直接調べ精細管を採取、そこから精子の有無を検査する方法です(精巣精子採取法)。

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